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GP輝凛E1 第1回 担当●河上裕マスター
「約束の日までに」


・・・退屈かい?
お伽話をしよう.
これは,あくまで架空の話.


 小さな森の中に,一軒の小さな家がありました.そこは農家で,野菜や果物を作って暮らしていました.お父さんとお母さんは,いつも山の上にある遠い畑へ行ったきりで,子供はいつもひとりぼっちでした.ある日,いつものように両親を見送った後でその子供は呟きました.
「僕にも,妹や弟がいたらいいのにな.うんと可愛がるのにな」
 その少年は,ひとりぼっちで,両親の帰りを待つのが淋しくて仕方ありませんでしたが仕事を頑張っている,お父さんやお母さんに淋しいと言って困らせるのも嫌でした.だからいつも我慢していました.
 その日,少年はいつも遊ぶ大きな木の前にやってきました.その木は,きっと何千年も何万年も前からそこに立っているような,古くて大きな木でした.少年は,この木が大好きで,いつもこの木の下へ来て,昼寝をしたり,あたりを探検していました.
 でも,今日は少し様子が違いました.先客がいます.このへんでは,見かけない子供がいたのです.しかもその子は,自分とは少し違う様子でした.
「やあ」
 その子は,少年に話し掛けました.
「いつもここへ来るんだね.この木が好きなの?」
 その子はとても優しい笑顔でいいました.
「うん,そうだよ」
 少年は答えました.
「僕はいつも,ここへ来ているんだ」
 それ以上,二人は何も話しませんでした.少年は,その子がとても優しく話すのを聞いて,その子が本当にいい子であることが分かったからです.自分とその子は,きっといいお友達になれると思ったからです.
 二人はそれから,毎日のようにそこへきて,お昼ご飯を食べるようになりました.
 その大きな木が,その子の親だという話を聞いたのは,随分と後のことでした.


 仲良くなって一年ほどの時間が過ぎました.少年はいつものように,大きな木のふもとまでやってきました.すると,何故かその日は,いつも自分より早く来ているあの子がいませんでした.
 その代わりに,小さな赤ん坊が捨てられているのを見付けました.
 少年は近付いて,その赤ん坊を見ました.小さな手を震わせて,その子は大きな声で泣いていました.少年は慣れない手つきで,その赤ん坊を抱えました.とても温かい体温が伝わってきました.小さくて・・・でもなんだか不思議な力を持っている.そんな気がしました.
【忌み嫌われた呪いの子供だ】
 どこからか,声がしました.少年は驚いてあたりを見回りました.
「だれなの?」
 でも,あたりは騒めく木の音がするばかりで,人影はありません.
【殺せ!殺してしまえ】
 脅かすような・・・とても恐ろしい声でしたが,少年はその赤ん坊を見つめました.澄んだ綺麗な目をした,かわいい女の子でした.
「いやだよ.何で殺さなきゃいけないの?この子はまだ,こんなに小さいのに」
 少年はぎゅっとその赤ん坊を抱きしめました.
【いいだろう.ではその子が八つになるまで守ってやるがいい.だがその命は,多くの犠牲を伴うものだ.お前たちも呪われる】
 それでも少年は,首を振りました.どうしても,その温かいものを守りたかったからです.やがてその気配は去り,赤ん坊はその少年の手元に残りました.
 両親は,その小さな赤ん坊を養子として育てることにしました.その殆どは,少年が引き受けることになるのですが・・・.


「それで,その話はどうなったの?」
 リュアナは,先を促すようにガナンの方を期待した目で見つめた.
「何もないよ,皆幸福に暮らしました,でおしまい」
 ガナンは両手を広げて,この話はおしまいだと言った.
「つーまんねぇの.その少年とやらはさ,厄介ごとを引き受けちまったワケだろ?もしかしたら死ぬかもしれないような事をだぜ?」
 ピカピカは身振り手振りを加えて大げさに語った.
「でも,赤ん坊を見殺しになんて,できるかしら」
 リュアナは眉間にしわを寄せつつ,ピカピカに言った.ピカピカも唸る.
「そうだなあ・・・そりゃ可哀相だとは思うけどさ,そんなおっかない連中に,たかだか一人の少年が適うとでも思うのか?」
 ピカピカに言い返されて,リュアナも更に唸った.
「でも・・・でも」
 言葉を続けようとした頃に,トントンとドアをノックする音が聞こえた.
「お客さまとは,珍しいですね」
 ガナンは立ち上がって,扉に手をかけた.バターン!と勢い良くドアが開けられる.
「リナちゃん,アビーくん,いる?」
 その声を聞いて,リュアナが寝転んでいたベットから起きあがった.
「フォル?フォルなの?」
 フォルと呼ばれたプラネタの少女は,名をフォリア・スピキュールと言った.リナとは同い年の幼なじみの一人だ.
「リュアナ,こんにちは」
 違う声も聞こえた.リュアナはそちらの方も見る.
「今の声は,マリー?」
 マリーと呼ばれた少女は,マリア・クラレンスという名で,ヴィータという種族だ.今年で六歳になる.
「あの,私も一応同じ目的なんだけどね」
 おずおずという感じの声が,最後に聞こえたので,リュアナはそちらを向いた.
「フローラ?」
フローラ・イリーズ.ビスティーノという種族で九歳になる少女だ.
「はり紙,見たよ!フォルも行く!ねぇ,いいでしょ」
 ぴょんぴょん跳ねながら,満面の笑顔でフォルは言った.
「勿論!仲間は多い方が嬉しいわ.みんなも一緒に行ってくれるの?」
 リナの問い掛けに,マリーとフローラは頷いた.
「私は今朝誘われたから・・・」
フローラは付け足すように呟いた.
「演奏会にでも,行くような格好ですね」
 ガナンに言われて,フローラは少し顔を赤くした.
「お母さんが,これを着ていきなさいって」
「マリーはね,掲示板見たんだよ.面白そうだもんね,おばけの話.マリーも前から,その噂気になってたんだ」
 ピカピカは,うんうんと頷く.
「冒険ってのは,やっぱ面白くねぇとな」
 ふと気付いたのか,フォルがキョロキョロと辺りを見回す.
「アビーくんは?」
 そう言われて,リナが扉を指さした.
「作物小屋の方にいるはずよ.食料を沢山準備するって言ってたから」
 そう言った途端,扉がバタンと勢い良く開けられた.両腕に沢山の野菜を持ったアビーが,入ってきたのだ.
「おお?何だよ,皆揃いまくって何話してるんだ?」  不思議そうな顔をしたアビー.
「探検にね,一緒に行ってくれるって.皆で一緒に行こうねって話してたの」
 リナの言葉に,アビーは思わずニヤリとした.
「何だよおまえら,おばけとか信じてんのかよ?もしかして」
 ニヤニヤ話すアビーに,カチンと来たのかピカピカが前にでる.
「確かめてもいないくせに,ゴチャゴチャと言ってんじゃねぇよ.恐いんじゃないのか?もしかして」
 ピカピカが,今度はニヤニヤする.
「なッ・・・!恐くないに決まってんだろう!何馬鹿なこと言ってんだよ!」
 ムキになりかけて,アビーは我に返る.
「あ,そうだ.こんな事してる暇はないんだ.保存食,死ぬほど作らないと,この人数だとかなりいるからな」
 アビーは台所の方へ行ってしまった.
「じゃあ,八時に広場のところで待ち合わせだからね」
 リナが言うと,三人は頷いた.
「じゃあ,また後でね」
 フローラ,フォル,マリーの三人はばたばたと帰って行った.
「なんだか慌ただしい感じでしたね」
 ガナンは,くすくすと笑う.
「どれ,アビーでも手伝いましょうか」
 そう言ってガナンが立ち上がると,ピカピカは思い出したように言った.
「そうだ,あのさ.沢山増えたらアレだろ.ちゃんとリーダーとか副リーダーとか決めておかないとな」
 リナは,もっともだと頷いた.いまでも十分な人数だが,もっと増えないとは言い切れないからだ.
 二人はもう少し,おしゃべりを楽しんだ.


 夜.七時を回ったあたりから,アビーは落ち着かなかった.
「さっきから,何歩き回ってるの?」
 リナは大人しく座っていない兄に対して言葉をかけた.
「あいつ,いつも待ち合わせの時は俺より先に来ている方だったからさ」
 あいつとは,ガナンのことだろうとリナは理解していた・・・そう言えば,ガナンは待ち合わせ場所に,まだ顔を見せない.先に,この中央広場へ来て,晩御飯を食べようかと話していたのに.
「先に食っちまおーぜ.オレ腹へっちまったよ〜」
 ピカピカが,足をばたばたさせる.
「冷めたら味が落ちるしな・・・いいか,そうするか」
 アビーはため息をついた.木の筒のようなものに入れたシチューを一人ずつ手渡す.かなり,いい匂いだ.
「いただきまーす」
 ピカピカが,一口目を頬張ったとき,一人の少女が歩いて近付いてきた.無言で少女は看板の前まで行き,はってあるはり紙の一つに手を触れた.そして,リナたちの方を振り返るとにっこり微笑んだ.そして,なにやらごそごそと取り出した.
「スケッチブック?」
 アビーが呟いた.少女は一枚目をめくるとそこには,こう書いてあった.
《初めまして,あたしはルゥナ・メイフィールドと言います.一緒に冒険に連れていってください》
 ピカピカはそれを読んで,顔を上げるとルゥナを見た.
「おまえ,口が利けないんだな.それで文字を書いてるんだろ?」
 ルゥナという少女は,微笑んで頷いた.見た目からすると七つか八つほどだろうか.デューベイという種族に思えた.
「そう・・・一緒に,行ってくれるの?」
 リナの言葉に,ルゥナは頷いた.リナは入れ物を置いて,手探りでその少女のもとへと歩いた.それで,ルゥナはリュアナの目が不自由であることを知った.
「私はリュアナ・ウィートと言います.どうぞよろしくね」
 リナは,ルゥナと握手した.ルゥナは嬉しそうに頷いた.
「そうだわ・・・お腹すかない?シチューがあるんだけど,良かったら食べない?」
 リナは自分の分をルゥナにあげて,アビーからまた新しい器によそってもらい,四人での夕食が始まった.


 食べおわった頃に,フローラが来た.手にはやはり,よそ行きのようなバスケットが握られている.
「まだ早かった?」
 フローラの言葉に,ピカピカが中央広場の時計台を見上げる.待ち合わせまで,あと三十分ほどだった.
「ま,そのうち揃ってくるだろ.座ってなよ疲れるからさ」
 ピカピカの言葉に,フローラは頷くと,ピカピカの横に腰掛けた.


 そのすぐ後に,フォルがやってきた.何やら大人しそうな,ヴィータの少年と一緒だ.
「何かね,そこに立っているのが後ろから見えたから声かけたらね,一緒に行きたいんだって」
 フォルの言葉に,その少年はちらりとリュアナたちの方を見てまた,下を向いてボソボソと呟くように言った.
「あの,俺タツキ・ガーネアって言うんだ.その掲示板のはり紙を見て,面白そうだし,それにいい薬草もあるかなと思って」
 アビーがその言葉に,ぴたりと動きを止めてその少年を見た.
「そうか,お前も薬師なんだな」
 アビーに言われても,彼をまっすぐには見ないでタツキは頷いた.
「あの,皆はタキ,って呼ぶんだ.だからそう呼んでくれて,構わないから」
 ピカピカが,面白いというように,ニヤリと笑いつつ近付いていく.
「タキ,お前何才だ?」
 至近距離まで近付かれて,顔を赤くしながらタキは一歩退く.
「え,じゅ,十四歳・・・」
 ピカピカは,更に面白いという顔でにっこりと微笑んでみせた.
「お前,副リーダーやる気ないか?」
 勿論ピカピカは本気である.
「ええっ?」
 驚いたのはタキの方だった.まだこの人たちとも初対面だというのに,自分に副リーダーをやれだなんて,面食らうのも当たり前な話である.
「たぶんさぁ,大人数になるだろ.リーダーはアビーの奴でいいとして,副リーダーも作っておきたいんだよなあ」
 眉間にしわをよせた後,ピカピカは目をぱちぱちとさせた.タツキの後方に,一人の少女がいるのが見えたからだ.
「あたしは,アゲート.アゲート・シャイニィって言うんだ.あたしも一緒に連れてけよ!母ちゃんさ,うるさくってもうウンザリしてたんだよな」
 くるりと器用に回って,ピカピカの横にストンと着地する.
「採用!!」
 ピカピカがそう言って,アゲートの肩をばんばん叩いた.
「え,何がだ?」
 アゲートが目をぱちくりさせると,ピカピカはうんうんと頷いた.
「今日からお前は副リーダーだ!なんだか知らないけど,強そうだしな」
 ピカピカがにやりと笑うと,何故かアゲートも楽しそうに笑った.
「よし,いいぜ!引き受けた.じゃぁ冒険に連れていってくれるんだな」
 ピカピカは頷いた.
「遅くなってごめんなさい」
八時丁度になったころ,マリーがあらわれた.
「これで何人だ?」
 ピカピカが辺りを見回す.
「フォル,ルゥナ,フローラ,タキ,アゲート,マリー,それにリュアナ,アビー,それで俺,と.全部で今のとこ九人か.結構大所帯だな」
 ピカピカが,ふとアビーの方を見た.
「ガナンの奴,来ないつもりなんじゃねぇのか,アビー.もう待っててもしょうがないじゃん.行こうぜ」
 ピカピカの言葉に,何か言い返そうとしたアビーがピカピカの後方に視線を止めて,顔をひくひくと引きつらせたので,思わずピカピカは振り返った.
「何だ?」
 白い,何やらシーツのような固まりがうにょうにょと動いている.
「何だコレ?」
 ピカピカが,足でつんつんとつつくと,先の方からぽこりと顔を出した少年がいた.
「うわっ」
 思わずピカピカは一歩退く.
「何だよお前,何やってんだよ」
「なめくじ」
 その場全体にし〜んという空気が流れた.
「さ,行こうぜ」
 ピカピカは言葉を続けた.
「オラも行く」
 その妙な少年も呟いた.
「あ〜〜〜もう!行くでも何でもいいから,とにかくスタートしようって言ってんだよ」
 アビーの方をにらみつけて,ピカピカはイライラした口調で腰に手をあてた.
「なんて言う名前?」
 リュアナがさして動じないのは,盲目のせいだろうか?
「シーン.シーン・エラン.皆はしんちゃんて呼ぶぞ」
 自分より小さい少年を,リュアナは,そうと言って頭をなでなでした.弟扱いである.
「よろしくね.私,リュアナって言うの」
「ガナン!」
 アビーが叫んで,遅れて表れた彼のもとへと駆け寄る.
「遅れて申し訳ありませんが・・・僕は行けなくなりました」
 突然の言葉に,アビーは目をテンにした.
「ええっ!何でだよ」
 食ってかかるアビーを制して,ガナンは彼を取り敢えず座らせた.
「裏の木が,枯れそうなんですよ.毎日世話をしてやりたいんです」
 僕は薬師ですから,とガナンは付け足して微笑んだ.
「大丈夫,僕がいなくてもアビーはちゃんと山へ行くことくらい,できますよ.その話を僕に是非聞かせてくださいね」
 ガナンが微笑むのを見て,アビーは渋々頷いた.
「分かったよ・・・じゃぁ,父さんたちがもし帰ってきたら,俺たちのことを適当に言っておいてくれよ」
 アビーの言葉に,ガナンは微笑んで頷いてみせた.


 それぞれの名前をと簡単な自己紹介を済ませると,フォリア,ルゥナ,フローラ,タツキ,アゲート,マリア,シーン,リュアナ,ピカピカ,そしてアビーの住人はオクヌ村を後にした.夜,八時三十分.
 一時間も歩くと,小さい皆はヘトヘトに疲れてしまった.慣れない夜道,疲れて当然なのだが,どうしても夜抜け出さなくてはいけない理由もあった.子供たちだけで旅をすると言えば,村を出るだけで大人たちに止められることは分かっていたから,できるだけ遠くへ歩いておきたかったのだ.
 一時間歩いては十分休憩して,という行程を繰り返して,深夜に差し掛かろうとというころに,やっと一行は隣村【バグラス】へと辿り着いた.まだ秋の初めとは言え,少し肌寒いくらいだったから,一行は寝床を探すため少し村を歩き回って,ようやく農業小屋のようなものを見付けた.
 かなり皆は疲れていたので,文句をいう気力もない無いらしく,全員すぐに寝入ってしまったようだ.


 次の日.
「め〜ぇ」
「きゃあっ」
 山羊に顔をなめられて,大人しいフローラがかなり大きな声を出したので,皆は飛び起きた.
「フローラでも,あんな声出すんだな」
 アビーはくすくすと笑った.笑われて少しだけ顔を赤くするフローラ.
「とりあえず,朝メシにしようぜ」
 眠そうな目をこすりつつ,アゲートは呟いた.


 同じ頃,シュパイエルの首都・ラーゴに辿り着いた青年が居た.名をショウ・カイル・ニューエント.またの名を闇律の貴公子という.
 彼はいわゆる旅人で,色々な土地を尋ね歩く音楽家でもあった.このシュパイエルへもその途中に立ち寄ったのだ.
 宿を出て,見晴らしのいい所でも登ろうかとが考えていたとき,一人のセルバらしき少年を見付けた.その横には,どこかで見たようなプラネタの男性が立っている.何故かそのプラネタの目は虚ろだった.
 ふと,セルバの少年がこちらへ振り返ったので,咄嗟にショウは身を隠した.
 何かがおかしい.歩き始めた二人を,ショウはそっとつけてみた.


 二人は,首都の街・ラーゴの大きな城,ノッツェンシュタイン城へと入っていく.
 衛兵が,敬礼している.
「王なのか?」
 あの,少し虚ろだったプラネタの目を,ショウは思い出した.
 何かが,不自然だった.ショウは少し考えた後で,城を後にした.


GP輝凛E1 第1回「約束の日までに」終わり

GP輝凛E1 第2回へ続く

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