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GP輝凛E1 第6回 担当●河上裕マスター
「目覚めの朝」


 初めての冒険.わくわくドキドキするようなことが起るんだって,内心とても期待していたのは事実.
 だからって,色々なことが一度にとても沢山起るなんて,思ってなかった.お兄ちゃんがいなくなったり,ガナンさんが変わってしまったり,自分の目が(少しだけど)見えるようになったり.
 そして何よりも,大きい変化.それは今,目の前にいるお姫様のこと.この国の,第一王女なんだってお兄ちゃんは言ってた.この人を見てるとね,何だか落ち着くの.変な話,お兄ちゃんやガナンさん,お友達皆やお父さん,お母さん.誰といてもこんな温かい気持ちになったことは無かった.
 違うの.幸福じゃないわけじゃないの.私はとても今までのことに,満足しているし,これからもずっと,こんな生活が続いていくんだと願っていたんだもの.
 そうじゃなくて,何か違うの.違和感って言うのかなあ・・・このお姫様と居ると,自分が自分じゃなくて,もう一人の違う自分がいるような気がするの.何て言えばいいのかしら,こうね,昔から知っているような感じがするの.初めて会ったはずなのにね.何故なのかしら.
「リュアナちゃん?」
 声をかけられて,私は思わず顔を逸らしてしまったの.気恥かしいのと,心の奥が見られているような気がして.
 そんなわけ,ないのにね.
「どうかしたのか?」
 ピカピカがすぐ隣で声をかけてくれたんだけど,私は強く首を振って見せただけ.だってこんなの,気のせいなんだもの.


 リュアナたちが部屋で寝入る頃,タツキ・ガーネアも同じように,布団へと潜り込んでいた.同じ部屋にはシーンとアビーが居る.既に幼いシーンは寝息をたてている.
「ねえ,アビー」
 声をかけられて,ベットから目線だけをタキの方へ向ける.
「何だ?」
  しばらくの沈黙の後,タキが口を開く.
「ここまで無事でこれて良かったと思ってるけど,まだ何も終わってないんだよな」
 アビーは何も応えない.
「分からないことが多すぎるよ.皆だって,そう思ってるはずだよ.最初はシュパイエルを巡る,ただのハイキングだったはずなのにね」
 タキは続ける.
「明日お城へ行くんだよね.ガナンやアビーは何をしなきゃいけないんだ?俺たちはただついていくだけじゃ済まないんだろ」
 アビーはタキから視線を外して,天井を眺めたまま応えた.
「理の力ってヤツを知ってるか?」
 アビーの言葉に,今度はタキが目をぱちぱちさせて考える.
「聞いたことはあるけど,具体的にどうこう言われると,よくは分からないなあ」
 そうか,とアビーは応えて目を伏せる.
「その昔,シュパイエルだけじゃなくて,全部の土地に生きものが作られた.それは神様の手によってだった」
 話が突然難しくなったので,タキは困惑してアビーを見る.それに構わずアビーは続けた.
「神様は生きものたち全部に,ある呪いをかけた.それは,ある一定の約束によって解けるものだった.伝承に伝えられてきた約束は,時間がたつにつれて人々の記憶から遠退いて,やがては誰もそれを伝えなくなった」
 ガナンが昔話をよくする,ということを聞いていたタキは,これもそのうちの一つなのかなと思った.だがこれは,あまりにも抽象的な上に,自分の質問と何がどう関係するのかよく分からなかった.
「それで,その約束・・・伝承だっけ,それはどうなったんだ」
 タキは取り敢えず聞いた.自分に理解できるかどうかは別として.
「アルベルトさんを始めとした,七人の特別な力を持つひとたちによって,その封印が解かれようとしてる・・・らしい.で,ガナンはその手伝いをしている.この世界を呪いから断ち切るために,その身を犠牲にしようとしてた.でも俺が請け負ったわけだ」
 ニヤリ,と笑ってアビーはその左手をタキに見せた.丸い中に,何やら複雑な模様が描かれた赤黒いもの.それが血の死線(デスライン)と呼ばれるものだった.
「・・・その模様も,約束に関係あるものなんだね」
 タキの言葉に,アビーは頷いた.
「この世界が崩壊したときに,その七人のひとたちは,神様を目覚めさせるらしいんだ.そのときに,神様の封印を解く鍵の一部になる印なんだってさ」
 鍵の,一部?タキはふとリュアナの言葉を思い出した.鍵になって扉を開ける,そう言っていた.
「リュアナもアビーも,鍵になるって言ってたよね.一体どういうことなんだ」
 軽い感じでずっと話していたアビーの表情に,少し影が差した気がした.
「人柱になる」
 ひとばしら?タキは思考能力をフル回転させて,その言葉の意味を探るが,よく分からない.
「俺はたぶん,今の世界の上では死んだことになると思う.リュアナはその力を解放させるだけの話で,俺は媒体になるんだってガナンは言ってた」
 タキは考えた.デスラインのせいで,死ぬのではなく.
 この世界を守るために,人柱になって力を解放して,死に至る.
「それを避ける方法は,無いのかい」
 問われてアビーは首を振り,無言でまた天井を眺めた.
「それでも諦めないからね,俺たちは.少なくともここまで一緒に来て,誰も何とも感じてないわけはないんだよ.皆で一緒に頑張れば,きっと何とかできるんだって,俺はそう信じたい.だから」
 そこまで言って,アビーを睨んでいたタキは,アビーと同じようにまた天井を見上げてため息をつく.
「目の前で,アビーにしてもリュアナにしても,ガナンにしても・・・相手が死んでいくのを見て,平気で居られると思うのか?」
 アビーは応えない.
「その心の傷は,一生残るよ.それは間違いなく,アビーが手に持っている傷と同じくらい深い傷になるんだ」
 タキに言われて,アビーは自分の左手を眺めた.
「おやすみ,アビー」
 タキは布団を被って,きつく目を閉じた.
「・・・おやすみ」
 アビーも静かにその目を閉じた.


夜が,更けていく.


首都の街・ラーゴ.
王城・ノッツェンシュタイン城.


 白く空が染まり始める頃,とうとう自分は徹夜したらしいことを,エリオット・ノイールは理解した.
 王女から,例の呪文を聞いてから何か伝承に関する知識をもう少しつけておこうと,彼女は図書館からいくつかの書物を借り受けていたのだ.読み耽るうち,いつしか時間は流れて朝を迎えた.
「うーん・・・」
 大きく伸びをして,少しでも眠るべく,彼女はベットへと潜り込んだ.目を閉じても,脳裏をまるで呪文の如く色々な文字が浮かんでくる.
 エリオットは目をあけて,天井をみつめるとため息をついた.どうやら眠れそうにないことを憂う.
 王宮の中にある小さな祭壇がある部屋.そこへ行くと,エリオットは精神集中がしやすくなる.このところ,何が原因かは分からないが神託能力が強くなっているような気がしていた.
 彼女は合間を見て,足繁くその聖なる場所へと通いつめていた.
 エリオットに精霊は話し掛ける.その小さな呟きを聞き逃さず,一つ一つを自分の中へと呼吸する.
 このところ,先を見るだけではなくて,精霊は何かを伝えようとしているように思えて仕方ない.でもそれが具体的に何なのか,エリオットにはまだ分からなかった.


何を,伝えようとしておられるのか.


コノ セカイヲ マモリタイノデス


私たちに,何ができるのか.


ミナサンニ ワタシノ コエヲ
トドケテホシイノデス
スベテガ コワレテシマウマエニ


世界は,滅びると?


コノママデハ イズレ ソウナルデショウ


・・・あの少年達は一体,何なのです


ナナテンシ
コノセカイヲ マモルモノ
ソシテ
メザメルモノ


七天使?あの少年がですか


チガウ
アレハ タスケルモノ
ナナテンシハ モウヒトリ
ハバタクモノ


羽撃く者・・・プラネタですか?
七天使とは,何なのですか


カミヲ メザメ トキハナツモノ
コノヨヲ ツカサドル
コトワリノ チカラヲ アヤツルモノ


 理の力.王女たちは,その力を持っているのですね?だからあの少年たちは協力を求めているのですね.


 天井を見つめていたエリオットは,理の力という言葉を反芻していた.
 膨大な量の伝承の書物.その中にも随分とその記述はでてきた.
 理の力とは,この世の全てを束ねるもの.神が昔封印されたとき,その力が漏れて様々な形をとったもの.
 でも,七天使という記述はどこを探しても見つからなかった.
 精霊の話からすると,アルベルトというあのプラネタがその一人らしい.
 そのことは,ショウ・カイル・ニューエントや王女たちにも昨日話した.神託が終わった時点で疲れてはいたが,自分たちが少しでもその力となるために,役立ちたかった.
 かなりの力を消耗したため,早く寝た方がいいと,ショウや王女たちにも勧められたのだがじっとしてなんかいられなかった.


 寝返りを打ち,テーブルの上にある書物をぼんやりと眺める.そのまま視線を窓へと移した.美しい朝焼けが写る.
 エリオットはゆっくりとその体を起こして,窓へと近寄り,開け放つ.
 暗かった辺りの緑へと,朝の光が降り注いでいく.まるでそれは,全ての生きものが生き返る,目覚めの意識のようだった.
 エリオットは深呼吸した.美しい.一旦閉じた目を大きく見開いて,その美しさを目に焼き付けようと,辺りを見渡す.自然と笑みがこぼれた.
 よし,頑張ろう.エリオットはそう自分に言い聞かせて,力強く頷いた.


 ショウ・カイル・ニューエントは,今一度自分の剣をじっと眺めた.家紋の入ったその剣は抜かれることは少ないが,手入れはきちんとされていて,美しかった.
 鞘にゆっくりとその剣を戻す.今回,これから起こる何かへの対策として,たぶんこの剣を使用することは少ない.そう思ったことの一つとして,ガナンが特別な力を使うこと.
 その力を使う特別な情況は,剣ごときでは到底追い付けないこと.
 そして,何よりも自分が大きな被害を避けたいと願っていること.
 ガナンが言ったとおり,王女たちやエリオットには逆らわず大人しくしていようという意向を伝えてあるし,彼女たちもそれに同意してくれている.
 ただし,今のところは,ショウはそこまで考えて,ため息をついた.エリオットは何やら考え込んでいるようだ.図書館から伝承やら何やらの資料を大量に抱え込んだまま,自室に引きこもっている.
 七天使がどうとか,言ってたなあと思い出す.あのアルベルトっておじさんが,その一人なんだと精霊が言ってるとか.それで何でガナンとあの親父が,このシュパイエル王城を乗っ取る理由に繋がるって言うんだろう.さっぱり分からなかった.
 そう言えば,前に見た王女たちの呪文.アレはどうやら,アビーという少年が言って,王女が詠唱した何とかいう呪文の中に,理の力がどうのという文句が入っていたように思う.
 あの呪文を詠唱したとき.ふとショウはそれを思い浮かべた.地面が光って・・・何かの模様みたいなものが浮かんだ.
 あのときの模様.ショウはどこかで見覚えがあるような気がした.記憶の糸を必死に手繰り寄せようと足掻く.
 ベットにごろりと寝転んで,天井をじっと見つめる.そしてまたため息をついた.
「明日・・・何かが変わるといいんだが.そてとも」
 ショウは自分の胸元からフルートを取り出した.それにも剣と同じ文様が,刻まれている.銀色のフルートを眺めつつ,もう一度起き上がって軽く伸びをする.
 明日は少し,早起きをしよう.ショウはそう考えて頷き,今日はもう寝てしまうことにした.


 だが,眠りにつこうとしたショウの耳に,何かの動く音がした気がした.
 耳を澄ませ,意識を集中させる.自分の眠る一階を通り過ぎていく足音.一つではないが,それは兵士たちのものとは少しばかり違う気がした.
 上へ向かっているようだ.ショウはゆっくりとおきて,手元の剣を取り敢えず腰につけた.


 気配を殺しながら,上へと向かう.この上は王女たちのいる階だ.そう言えば,ヴォラーレ・ウィッチェロが寝ずの番をするとか何とか言っていた気がする.彼がついているならたぶん,王女たちは安全だろう.
 だが・・・しかし.色々なことを考えながらもショウは前へと歩いていく.
 少し向こう側に,人影が見えた.どうやら追い付いたらしい.一人は訓練された動きだが,その後ろから歩いているのはどう見ても少女だった.
 ショウは後ろから近づいて,剣は抜かずに笛をポケットから取り出した.
「見慣れない顔だな,この城に何の用だ」
 二人は振り返り,自分を見た.そして後ろを歩いていた少女は,自分を見るなり,いきなり飛び付いてきた.目をパチパチとさせ,わけが分からないショウ.
「おにいちゃんですぅ!」
 その少女が叫んだ.お兄ちゃん?ショウは思考回路をフル回転させて考えるが,思い当たるフシが無い・・・と思う.だが自分に抱きついている少女は明らかに,自分を知っている感じだ.
「な,何だっ?」
 わたわたと,ショウは慌てた.彼にしては珍しいことである.
「・・・知り合い,なのですか?」
 青年が自分に問い掛ける.
「探してた,おにいちゃんですぅ」
 うふふ,と嬉しそうに少女は笑うと,やっと自分から離れた.少しホッとするショウ.
「ああ,そう言えばミラさんは人探しをしていたんでしたね」
 奥に居る,プラネタの男性が頷いてそう言うのをショウは眺めていた.まるで他人ごとのようだ.
「私,ミラですぅ.ミラ・ホワイトですよ,おにちゃん」
 それでも分からず,ショウは眉をひそめてその少女をじっと見つめる.だが思い出せない.
「これ,ちゃんと大事にしてますよぉ」
 少女は思い出したように,胸元から一つのペンダントを取り出した.青いガラス玉のついた綺麗なもの.
 ふと,何かが記憶を過ったような気がした.むむむ,とショウは考える.
「あれ・・・どこかで,見たような気がするけど」
 更にショウは唸る.どうも思い出せない.
「そうだっ!」
 ショウは,ハッとして叫んだ.
「こんなことしてる場合じゃない,アミルとナミカの様子を見にいかないと」
 ショウは目の前へ向かって走りだした.どうやら後の三人もついてくるようだ.あの,ワケの分からない少女も.


「ショウ」
 自分を見て,ヴィが呟く.一体どうしたんだという顔.そこへ,先程の少女が追い付いてきて,ショウの腕にしがみつく.
「その客人は?」
 ヴィに聞かれても,ショウはうまく応えることが出来なくて困惑する.
「それが,思い出せないんだよな」
 そしてあとの二人もやってくる.
「あ,フラットさん?」
「おや,久しぶりですね」
 ヴィの横にいた青年に声をかけている所をみると,どうやら彼らは知り合いらしい.まさしく取り越し苦労というものだったことを理解して,一気に力が抜けるショウ.
「それで,ここにガナンは来ていますか」
 プラネタの男性の口から,ガナンの名が出たのでショウは驚きその人物を見た.そして気付いた.自分を固めた,あいつだ.
「いいえ,こちらには王女たち二人しかいませんよ」
 アルベルトは,かなりがっかりしているようだ.
「何かあったんですか?」
 フラットと呼ばれた青年が尋ねて,皆を不思議そうに眺めていた.


「・・・!」
 アビー・ウィートは,突然飛び起きた.何か異様な雰囲気を感じたし,何か物音がしたような気がしたからだ.
「何だ?」
 それに気付いて,タキも起きる.
「奥の部屋からだよ」
 タキの言葉に,アビーは頷いて二人で部屋を出ていった.


 アビーやタキ,それにシーンたち男の子ばかりの部屋に対して,ここはマリーやルゥナそれにフローラやフォル,アゲートなどがいる女の子の部屋だ.王女・エルファイル・メイアもこの部屋にいた.全員で8人もいるこの部屋は結構広かった.
「皆,寝た?」
 ぼそぼそと,フォリア・スピキュールが尋ねると,皆はベットからぽっこりと顔を出してみせた.
「ううん,何か眠くない」
 フローラがそう言って,ため息をついた.横でルゥナも同じように,こくこくと頷く.
「明日,お城へ行くんだよねぇ」
 そう言うマリーも少し,不安そうだ.ここへ来て皆,少しだけ不安が広がっているようだ.
「何だよ暗いなぁ」
 ピカピカは鼻をフン,と鳴らしたがそれでも皆は少し暗い.
「お話でも,できたらいいんだけどな」
 リュアナが呟いた.ガナンを思い出しているのだろうか?
「大丈夫,きっとうまくいく・・・とアビー君は言っていたわよ?だからきっと,大丈夫よ」
 エルは,微笑んでそう言った.そうだ,と王女はベットから起き上がって何やらゴソゴソと持ち出してくる.
 紙切れを見つめて,言った.
「加護の呪文,皆さんにもおかけした方がよろしいですよね?」
 ピカピカは,ハッとして言う.
「それって,ガナンとかアビーが何かやってたアレか?」
 ピカピカはちらりとリュアナを見た.
「ええ,そうですよ」
 エルは自分のかけていたペンダントを外して自分の手のひらに置いた.それは少しだけ,以前リュアナがかけていたものに似ていた.
「皆を守る力が,強くなるの?」
 マリーが身を乗り出して言った.皆で戻りたいと思う,強い心はそれぞれ少しずつ形が違うかもしれない.それでも.
「そういうことに,なると思います」
 エルは応えた.マリーはベットから起き上がり,エルの前に行った.
「だったらマリー,強くなりたい.皆で村に,帰りたいもん!」
 マリーの言葉を聞いて,フローラとアゲートも立ち上がって同じように,エルの前に立つ.
「私も,やります」
「気持ちは同じだよな」
 そしてフォルが立ち,ルゥナも立ち,最後にピカピカとリュアナが残った.
「リュアナは止めとけよ」
 ピカピカに言われて,リュアナは不思議そうに首を傾げた.
「何故なの?」
 だっておまえ,と言ったときだった.何かがゴトン,という大きな音をたてたのが全員に聞こえた.
「何だ?」
「奥の方の部屋から聞こえたわ」
 そして隣の部屋の扉が勢いよく開いて,バタバタと走っていく音がした.
「アビーたち,行ったのかな」
 ピカピカが言って,ドアを開けて確かめる.
「また何かあったのかなぁ」
 フローラは少し不安げに呟く.少しして,ピカピカが戻ってきた.
「シーンだけしか居ない.二人はたぶん,奥の部屋へ行っちまったんだ!オレたちも急ごうぜ」
 ピカピカの言葉に,全員は頷いた.急いで全員が次々に走り出していく.
 リュアナはその中で,思わず立ち止まる.


この先へ,行ってはいけないと.


何かが,命令する.


「どうしたの?」
 それに気付いた王女・エルが自分に話し掛ける.あのペンダントが近付いてくるのが分かる.
「いや・・・いやよ,来ないで」
 一歩,二歩と後退りするリュアナに,不思議そうな顔をするエル.


ルゥナ・メイフィールドは,皆と一緒に走ろうとしたときに,目の見えないリュアナがいないらしいことに気付いた.そして,駆けていく皆の中で一人,後戻りする.
 そして部屋をのぞいたときだった.
「きゃああっ」
 王女・エルの叫び声とともに,閃光が辺りを包み込む.とても眩しくて目を開けていられない.ルゥナは,ぎゅっと目を閉じた.


 そしてその光が少し,緩くなったようなので,恐る恐る目を開ける.
「リュアナちゃん・・・大丈夫?」
 王女が心配そうに,倒れているリュアナを助け起こした.ぐったりしていて,目を覚ましそうになさそうだ.
「駄目だわ・・・ルゥナちゃん,だった?」
 呼ばれて,こくりと頷くルゥナ.
「お兄ちゃんを,アビーくんを呼んできてもらえるかしら?」
 ルゥナは頷いて,すぐさま部屋を飛び出すと走りだした.


「んぁ・・・」
 残された部屋で,シーン・エランがようやく目を覚ました.誰もいなくなった部屋を見て,呟く.
「皆迷子だ・・・」
 そしてまた,ぱたりと眠ってしまった.


 やっとのことで,奥の部屋へと辿り着いたタキとアビー.
 ガナンが,何やら装置の前に立っているのが見える.中には,ガナンの他にディギーがいたようだ.
「待てよ!」
 アビーは叫ぶ.また何か,ガナンが始めようとしているのだろうか?
「城へ行くのは,明日だったんだろう?」
 タキの言葉に,ガナンは首を振る.
「フライングしたのは,僕じゃなくてスティアさんと,ディディですよ」
 ガナンがため息混じりに呟いた.
「とにかく,王女とアビーは一緒に来てもらいます」
 そしてガナンは,アビーたちの後ろにいる皆に視線を送る.
「他の皆さんは,どうしますか」
 問われて,アビーの後ろにいた女性はそれに応えた.
「今更ここまで来て,逃げられないわ.行くに決まってるでしょ」
 女性は,いいきった.
「それなら,皆さんを起こして下さい.僕はこの装置を起動させてお待ちしています」
 その言葉が終わらないうちに,後からやってきた女の子たちが到着した.
「何かあったの?アビー」
 先頭で到着したのは,マリーだった.
「いや,今はまだ俺にもよく分からない.けど明日の朝行くはずだったピクニックは,今すぐに変更だ」
 アビーの言葉に,フローラやフォルたちは面食らう.
「何かあったんだねっ」
「じゃあ,皆を連れてこないと」
 二人の言葉に,タキは頷いた.
「そうだね,一旦部屋へ戻って装備をして着替えて,それからもう一度この部屋へ集合しようか」
 タキの言葉に,全員は頷いた.
 そこへ,息急き切ってルゥナが到着した.そしてキョロキョロと見渡してアビーを見付けると,彼の袖を掴んでまた元来た道を指差した.
「ルゥナ,どうしたんだよ?」
 アビーは分からず問い掛ける.ピカピカが近寄ってきて,じっとルゥナを見た.
「何かあったんだな?」
 そう言ってから,フローラがぽつりと呟いた.
「リュアナちゃんと,エル王女いないよね」
 しーんという沈黙ののち,アビーはピカピカと顔を見合わせて頷いた.
「急ごう!」
 ガナンとディギーを残して,全員がまた走り始めた.
「目覚めの朝,になるわけですね・・・文字どおりに」
 彼らの背に,ガナンは呟いた.


 部屋に行くと,王女・エルの膝に,気を失ったリュアナがいた.
「リュアナ!」
 アビーがその名を呼んで,素早く近寄る.
「リュアナ,大丈夫か」
 ピカピカもその横に寄り添う.
「リュアナちゃん,どうしちゃったの?」
 不安そうにフォルが聞く.
「分かりません.何か私のこのペンダントを恐がっていて,よく分からないんだけど,急に強い光を出したと思ったら,リュアナちゃんが倒れていたんです」
 タキが,ハッと気付く.前にアビーから貸してもらったペンダントは,リュアナの身に危険が迫ると光ると言っていた.
「何かこれから,起るのかな」
 タキが呟く.
「そうかもな・・・どっちにしても,これじゃリュアナは無理だろ」
 ピカピカの言葉に,アビーは首を振る.
「駄目だ,リュアナは連れていく.ここへ置いて行ったら,暴走するかもしれないからな」
 暴走という言葉を聞いて,ほぼ全員が目を点にした.
「ぼうそうって,何?」
 マリーが尋ねた.
「リュアナはとても強い力を持ってるんだ.それがたぶん,目覚めたんだと思う.また封印しないと,リュアナ自身が辛いかもしれない」
 アビーは妹を,辛そうに眺めた.
「う・・・ん・・・」
 リュアナが,目を覚ましたようだ.
「リュアナ」
「リナちゃん」
 全員が覗き込む中,目をぱちくりとさせるリュアナ.じっと目の前のアビーを見る.
「お兄ちゃん」
 呼ばれて,ん?と応えて一歩近付くアビー.
「お兄ちゃんの目って,赤いのね」
 そう言って,アビーの頬を撫でる.
「リュアナ,お前目が見えるのかよ?」
 ピカピカがそう言った.
「ピカピカの髪,すごく綺麗」
 言われて何故か真っ赤になるピカピカ.
「なんで見えるようになったのかなぁ」
 フローラが呟く.
「でも良かったね!リュアナちゃん」
 マリーがにこにこして言う.
「うん,ありがとう」
 ふふふ,と嬉しそうに笑うリュアナ.
「私,お城へ行くわ.封印を解くのが私の役目だもの」
 リュアナはそう言って,微笑んだ.
「そうか・・・よし,行こう!」
 アビーの言葉に,全員は頷いた.
「じゃあさっきも言ったけど,それぞれに支度をしてさっきの部屋に集合だからね」
 タキの言葉に再び全員は頷き,それぞれの部屋に再び帰った.


 部屋を出ていこうとするタキの,袖を軽く引っ張る.
 引っ張られたタキは誰かと,振り返った.
「フォル?」
 タキに言われて,こくりと頷くとその腕をがしっと掴んで,ずんずん歩くフォル.連れられるままに,ついていくタキ.
 二人は,いつも皆が食事をとる場所にきていた.ふたつの椅子に並んで腰掛ける.
「それでどうしたんだい?」
 タキに促されて,フォルが話し始める.
「あの,ね.フォルちょっと恐いんだ」
 お互いに並んだまま,前を向いて話す.
「恐い?」
 タキに返されて頷くフォル.
「だって,皆でずっと一緒に歩いてきてね,遠足の続きみたいで.いっぱい楽しいこともあったんだけどね,でも,でもやっぱり」
 俯くフォル.声が少し小さくなる.
「ガナン君のこと,よく分からないもん.何であんな,悪いこととかするのかなって思うしね,リュアナちゃんだって不安みたいだしそれに,ルゥナちゃんはケガしてるしっ」
 不安をいっぱい話していて感情が高ぶってきたのか,思わずフォルは涙をこぼした.ぱたりとその洋服の端に,ひとしずく落ちる.
 タキはすっと,椅子から立ち上がってフォルの顔を真正面から見つめた.
「フォルは不安なんだね.村から離れて随分と経つからね」
 にこりと微笑むタキ.思わず目を反らすフォル.
「あのね,フォル.俺だって全然平気なんかじゃないんだよ,本当のところはね」
 思わず顔を上げてタキを見るフォル.
「でも,逃げたって大切なものは守れないんだよね.だから俺は,俺のできることを精一杯したいと思ってる.フォルだって,皆のことが大好きだし,大切だよね?」
 フォルは,こくこくと頷いた.うまく言葉にならない.
「それなら,きっと大丈夫だよ.皆で力を合わせたらきっと,いい方向に流れていくと俺も信じたい.だからフォルも,自分を信じてみてもいいんじゃないかな」
 タキは軽く,ぽんぽんとフォルの頭を優しくたたいた.
「さ,用意しなきゃ.皆待ってるかもね」
 フォルは,涙を拭いて頷いた.二人は急いで部屋へと戻った.


 それぞれの夜が,明けようとしている.


GP輝凛E1 第6回「目覚めの朝」終わり

GP輝凛E1 第7回へ続く

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