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GP輝凛E1 第4回 担当●河上裕マスター
「たいせつなもの」


アクセサリー.

紋章の入った剣.

おんなのひと.

ペンダント.

イヤリング.

薬師としての知識.

歌と音楽.

絵を描くこと.

ともだち.

家族.

妹,そして友達.

二人の親友.

大好きな幼なじみ.


 それぞれの大切なもの.他の何かと比べたりなんて出来ない.この世の中で一番,かけがえのない存在.
 自分にとって,いろんな力を与えてくれるたいせつなもの.そのために頑張ることができるもの
 そして何より,自分に幸福を与えてくれるもの.


たいせつな,もの.


 あなたが思うよりも,僕はあなたのことが大好きだよ.
 僕があなたのために出来ることは,ほんの少しだけだ.でもそれは,僕にとっては命懸けのことなんだ.
 あなたが真実に辿り着いたとき,あなたは僕のことを蔑むだろうか,哀れむだろうか.それとも,あなたは・・・・・・.
 奇跡というものが,この世の中にあるのなら僕はその奇跡を起こす力になりたい.あなたを守ってあげたい.あなたが大切と感じるすべてを,僕の全てをかけて守ってあげたい.あなたがいつも,笑顔でいられるように.


 最初のきっかけは,簡単なものだったはずなのに.皆で楽しく冒険するつもりで,つまりは楽しいピクニックで.
 ガガンタを出た頃から,リュアナちゃんは何かに怯えていて,皆に声をかけられていても,話を聞こうとすらしなかった.それは私に対してだけじゃなくて.


「はあ・・・」
 フローラ・イリーズは,天井を睨み付けたままため息をついた.周りの皆は穏やかに寝息をたてている.
 ちらり,と横を見た.マリア・クラレンスことマリーも,皆と同じように,気持ちよさそうに寝息をたてている.
「よし,決めた」
 フローラはおもむろに起き上がった.まだ夜明け前で,あたりは少しずつ太陽の光が差し込んでいる.
 手荷物から紙を取り出して,絵コンテで何かを書くと,マリーの枕元にそっと手紙を置いた.まだ寝静まった皆を置いて,フローラは一人で光の山へ向かって歩き出した.
 ・・・・・・はずだった.


 太陽が,柔らかい日差しを運んできて,眠る皆の上に温かい光を降り注いでいる.
「う〜ん」
 タツキ・ガーネアは,うんと伸びをしてから起き上がった.横で眠るシーンは,まだ気持ち良さそうに寝息をたてている.まだ朝早いのか,辺りは水をうったように静かだ.
 とりあえず自分だけ起きようか,とタキは寝床を抜け出した.


 宿の裏手にある井戸の前には,リュアナとフォリア・スピキュール,そしてルゥナ・メイフィールドの三人が既にいて,仲良く顔を洗っているようだ.
「おはよう」
 タキが声をかけると,三人は揃って顔をあげた.
「タキくん,おはよう!」
「よく眠れた?」
 フォリアとリナが微笑んで言う.
「リナ,フォル,それにルゥナ,おはよう.今日もいい天気だね」
 タキはにこりと微笑み返した.
「皆はまだ寝てるのかな」
 タキの言葉に,フォルが頷いた.
「たぶん,そうだと思うよ.お隣の部屋覗いてないけど,静かだったからね,起こさないようにそっと出てきたんだもん」
 フォルの言葉を聞きながら,タキは上の部屋を眺めた後,その視界を自分の下げているペンダントに落とした.
「リナ」
 タキが突然,自分の名を呼んだので,チナは目をテンにして彼の方向を見つめた.
「なぁに?」
「リナのことは,俺が守るよ.だから光の山へ行こう」
 真っすぐに見つめるタキの視線を,横にいたフォルとルゥナは,心配そうに見つめていた.
「ガナンとアビーに起こっていることを,リナは知らなくちゃダメだ.そうやって恐がるばかりじゃ,二人のことはどうにもできないんだよ.だから,一緒に行こう」
 真っすぐに,リナもタキの方を見つめた.その雰囲気に,何故かわきにいたフォルとルゥナが顔を赤くさせている.
 タキがその熱意のままに,リナの手を取って続ける.
「リナのことは,俺がちゃんと守るから.だから一緒に来て欲しい」
 タキとリナが手をとって見つめ合う.その様子を眺めていたフォルが,眉間に少しだけしわを寄せている.彼女にしては,珍しい表情だ.
 それに気付いたルゥナが,いつものスケッチブックにさらさらと字を書いてから,つんつんとフォルをつつく.フォルはびくりと体を強ばらせつつ,ひくひくと口の端をひきつらせたままルゥナを見た.
「な,なぁに」  まだ少しその余韻があるのか,フォルの笑顔が少し不自然だ.
「ええと・・・“どこか痛いの”」
 それを読んで,思わず苦笑いするフォル.
「どこも痛くないよ,大丈夫」
 えへへ,とフォルが照れ臭そうに笑うのを見て,ルゥナはホッとした表情になる.
「うん・・・」
 握っていた手を離してから,リナは力なく頷いた.少し俯いたリナの顔をタキが覗き込む.
「リナ,このペンダントのことを何か知らないかな?」
 言われて,リナは顔を上げて手探りする.タキは首から外して,そのペンダントをリナの手に握らせた.
「アビーから預かったものなんだ.少しでも何かを知っているなら,教えてくれないかな」
 不安そうに,タキが言う.リナはそのペンダントを握って頷いた.
「このペンダントは,お守りなの.深い闇から守ってくれる・・・」
 リナは浮かない顔でそう言った.
「深い闇?」
 タキの問い返しに,リナは頷く.
「そう.昔,占いで見たことが,本当なにならないようにするの.お兄ちゃんが・・・私をおいていってしまわないように」
 でも,意味なかったね,とリナは小さく呟いて再び俯いた.
「リナちゃん」
 フォルは思わず,リナをぎゅっと抱き締めた.
「大丈夫だよ,アビーくんはきっと戻ってくるよ!そう信じなきゃダメなんだもん!」
 フォルの言葉にリナは頷いて,ポロポロと涙をこぼした.
「フォル,ありがとう」
「・・・ルゥナちゃんも“みんな一緒だから大丈夫だよ”って言ってくれてるよ」
 リナは,涙を拭いて頷くと微笑んだ.まだ涙は乾いてはいなかったが,少しだけ温かい空気が四人の間に広がって,しあわせな気分になることが出来た.
「えええ〜っ!」
 突然,物凄く大きな声が響いてきたので,タキたち四人は思わず顔を見合わせた.
「何だろう?」
「行こう!」
 四人は頷いて,急いで部屋の方へと走り始めた.


「どうしよぉ〜」
 マリア・クラレンスは,べそべそと泣き出した.
「ったく,団体行動を乱すヤツばっかなんだから・・・」
 ピカピカはぶつくさと文句をたれている.
「まだあまり遠くへ行ってないかもしれないし,急いで探そう」
 アゲートは少し焦ったような顔で,辺りを見渡してそう言う.
「オラも冒険いきたいぃ〜ん」
 シーン・エランは相変わらずマイペースである.
 そこへ,バタンと勢い良く扉が開いて,タキとルゥナ,フォルとリナの四人が入ってきた.
「何があったの」
 フォルの言葉に,ピカピカの顔には怒りマークが浮かんでいる.
「・・・・・・“光の山に行って来ます フローラ”」
 声を出して読んだ後,フォルは思わず口をあんぐりと開けた.
「ええっ!大変じゃない」
「すぐ探そう」
 フォルとタキがそう言った.ピカピカは頷く.アゲートも頷いて,タキの方へと近寄ると周りを見渡す.
「二手に別れて探そう.待ち合わせ場所は,この村の端にある公園にしよう」
 タキは頷く.
「じゃあまた,適当に分けるぞ」
 ピカピカの言葉に,全員が集まる.
「ルゥナとフォル,それにリナがタキと一緒で,マリー,シーン,それにオレがアゲートと一緒に探そう」
 ピカピカの言葉にしたがって,皆が別れていく.この間買い物をしたときとほとんど同じくして,だ.
「じゃあ行こう」
 タキの言葉に,皆は頷くと部屋を出ていく.
「タキ」
 ピカピカが,歩き始めたタキを呼び止めた・
「・・・気をつけろよ」
 ピカピカの言葉に,タキは振り返らずに頷いた.


 アゲートたちの方は,村の周りを探索する.タキたちの方は,村から光の山を目指した道を歩いていく.皆の顔には,明らかに心配そうな表情が見てとれた.


 そのころ,フローラ本人はと言えば.
「ふぇえ,迷っちゃったよぉ〜」
 えぐえぐ,と泣きながら村の裏手あたりを彷徨い歩いていた.ちなみに,光の山の方向とは明らかに反対方向である.少女は,無類の方向音痴であった.


 ショウ・カイル・ニューエントは,ガナンに言われたことが気にかかっていた.
 自分の国を守るなどということが本当にできるのかどうかは,分からない.それでも自分にできることをせめて,一生懸命やろうと思っていた.
 彼は王宮より,軍用馬を借り受けて急いで光の山へ行こうと考えていた.
「あの,ちょっと構いませんか」
 後ろから声をかけられて,ショウは振り返ると少し驚いた.その人物が,第一王女ことエルファイル・メイアだったからだ。
「ええ,構いませんよ」
 にこやかに微笑むショウ.少しホッとした王女に招かれて,彼女の部屋へと入る.
 そこには,もう一人女性が待っていた.数日前に一度,食事のときに見かけたことのある,ビスティーノの女性だった.
 女性はショウが入ってくると椅子から立ち上がり,頭を丁寧に下げた.それに答えてショウも会釈する.
「どうぞ,お座りになってください」
 エル王女に促され,ショウは腰掛ける.三人分のお茶を運んでくると,ショウたちの前に,クッキーと共に差し出した.
「召し上がって下さいね」
 微笑むエル王女に二人は頷いて,紅茶に手をのばすと一口飲んだ.
「呼びつけてしまって,申し訳ない.私は巫女で,エリオット・ノイールです」
 ショウは,紅茶をテーブルに置いてから話し始めた.
「俺はショウ・カイル・ニューエント.シュパイエルを回ってる,まあ旅人というところかな」
 二人はお互いによろしく,と言って握手をした.
「お前なら,この国に起こる異変について何かを知っているんじゃないかと思ったんだ.ご協力願えないだろうか」
 言われて,エル王女をちらりと眺める.いつも微笑んでいる彼女が,珍しく真面目な顔で頷いて見せた.
「ナミカやアミルからお話を伺っていて,あなた様なら何かしら力になってもらえるのではないか,と思ったんです」
 二人が真剣であることを悟って,ショウは頷いた.
「分かったよ,俺にできることなら何なりと協力させてもらうよ」
 ショウは微笑んだ.
「我が神ピューロ神は,この国に起こる異変と迫り来る闇について,懸念されているようだ.私も力の限りこの国を守りたい」
 ショウは,軽く頷いた.
「そうか・・・王女.あなたが見たという噂の少年についてくらいしか,俺には分からないけどね.今のところは」
 苦笑いしてみせるショウ.
「ガナンを,知っているのですね」
 エルの顔色が少し変わった.
「名前もご存じなら,俺が力になれるような情報は無いかもしれないね」
 エリオットが,首を振ってみせる.
「そんなことはない.ガナンという少年と顔を合わせたことがあるのだろう?それだけでも十分,神託の情報としては価値がある」
 ショウは頷いた.
「そうか・・・これから,ガナンのいるはずの光の山へ行く予定なんだが」
 そう言われて,エルとエリオットは顔を見合わせた.
「私もご一緒させていただく」
 エリオットに言われて,ショウは頷いた.
「それでは.手配させていただきますね」
 エル王女は立ち上がって,部屋を出ていた.
「ラーゴへ来る前に,この国のあちこちを巡られたのか」
 聞かれて,ショウは首を振った.
「いいや,連れてきてもらったプラネタの知人がここの住人でね.まだだよ」
「そうか・・・」
 その答えに,少しその表情にかげりが見えたので,ショウは不審に思った.
「何かあるのか」
 そう言った途端,二人の間に何か嫌な雰囲気が漂う.この雰囲気は,忘れようとしても忘れることができない.
「ガナンが,いる」
 ショウは,腰にある剣を鞘ごと抜いて構えると辺りを伺う.
「こんな威圧は,初めてだ」
 何故こんな力を・・・と,エリオットは呟いて,同じように周りを伺う.
「王女は,借り受けますよ」
 後方から声がしたので,二人は驚いて振り返るとその声の方向を睨み付けた.
「ガナン!」
「エル様をどうするつもりだ」
 ガナン・イルビアラその人は,二人の態度を見ても,何ら慌てることなく微笑んでみせた.
「そんなに粋がらなくても,傷つけたりはしませんよ.大切な方ですからね.僕にとっても皆さんにとっても」
 その言葉と同時に,ガナンはふわりと掻き消えた.
「くそっ!」
 ショウは慌てて剣をまた腰に戻すと,部屋を飛び出した.それに続いてエリオットも走り出した.


「あっ,いた!」
 聞き慣れた声が,どこからかしたので,半ベソだったフローラは辺りをキョロキョロと見渡した.
「フローラ!」
 アゲートが大声をだして,フローラの方へ走り出す.ピカピカにマリー,シーンもそれに続いて走る.
「大丈夫か?」
 一番にやってきたアゲートに,思わずとびついて泣きだしたフローラの背を,そっと抱き締めてやるアゲート.
「バカかおまえは!」
 ピカピカは,泣きじゃくるフローラに,いきなりどなりつけた.
「皆がどれだけ心配したと思ってんだ!団体行動が守れないようなら,村に帰っちまえ」
 あまりにもキツイ物言いに,横に来ていたマリーとシーンがビビッて青くなる.
「まあ,そう言うなって」
 アゲートが苦笑いする.
「・・・ごめんなさい」
 涙いっぱいの顔で,フローラが謝る.ふんと鼻を鳴らすピカピカ.
「二度と,こういうことはするなよ?今すぐ約束しろ」
 こくん,と頷くフローラを見て,ピカピカは笑顔を見せて頷いた.
「よし!じゃあ,待ち合わせ場所へ行こうぜ.リュアナたちもきっと心配してる」
 オレたちはみんな仲間なんだからな,とピカピカは呟いて,少し顔を赤くした.そんなピカピカを思わず見つめるマリーとフローラ.フローラの涙は,とうに乾いていた.
「・・・ありがとう」
 えへへ,と嬉しそうにフローラは言った.ふん,と鼻を鳴らすピカピカは足早に歩き始めた.それに続いて,フローラとマリー,そしてその後にアゲートとシーンが続いた.


「良かったぁ」
 フォルはそういって,嬉しそうに笑った.ルゥナやタキ,それにリュアナも嬉しそうにしている.
「何ともなくて,良かったね」
 タキに言われて,フローラは少し恥ずかしそうに俯いた.今になって少し,その行動を後悔しているのかもしれない.
「じゃあ皆揃ったことだし,早速,光の山へ行こうぜ!」
 ピカピカが言うと,皆はさんせ〜い!と声を揃えて,嬉しそうに笑った.リュアナももちろん微笑んで頷いていた.


 ジュラン村が見えてきた頃,太陽は殆ど真上に昇っていた.
「オラ腹へったぞぉ〜」
 最後尾で歩く,シーンがぼやく.皆も力なく頷く.そろそろお昼ご飯の時間ではある.
「ジュラン村で何か食べられるところへ,行こうよ」
 タキの言葉に,一同は嬉しそうに頷く.
「賛成!」
 皆はあと少しの距離を,一生懸命歩いた.
 ジュラン村について,ふらふらと歩く一行の中で,かなり元気なのが約二名.
「ごはん〜ごはん〜温かいごは〜ん♪」
「おいしい〜ご〜は〜ん〜♪」
 楽しそうに歌うマリー,その横で,少し節のずれた歌を歌うシーン.
「元気だなぁ」
 うふふ,と嬉しそうに笑うフォル.
「あっちだぞ!」
 シーンが突如叫ぶと,物凄い勢いで走り出した.どうやら,食物の匂いを察知したらしい.流石というか何というか・・・・・・.
「あ,待ってよシーンくん」
 歌っていたマリーが,思わず声をかけたが彼には聞こえていないようだ.
「ったく・・・」
 ピカピカがぶつくさ言いながら,面倒くさそうに追いかけて走りだす.皆も疲れてはいたが,走り出した彼らを追い掛けて,少し足早になる.
「あれぇ?」
 シーンが走り去って,最後尾になったフォルがふと目を止めた一枚のはり紙.
「ねぇ!」
 前を行く,タキやルゥナ,リュアナに声をかけるフォル.
「どうしたんだい?」
 タキが戻ってきて,フォルが指差すはり紙を眺めた.
「“ガナン・イルビアラという人を知っている方,アルベルト・ディアンナさんのことを知っている方は食堂マーレまでお知らせください”」
 フォルとタキは思わず顔を見合わせる.
「食堂マーレってどこかな」
 フォルの言葉に,リュアナとタキは唸ってから,同時に叫んだ.
「シーンくん!」
 フォルとリュアナ,タキとルゥナは頷いて走り去った連中を全速力で追い掛けた.


 シーン・エランは的確に,食べ物の匂いを嗅ぎ当てていた.
「ここだぞぉ〜」
 ふんふん,と匂いながらシーンは立ち止まると幸せそうにヘラヘラと笑った.
「ったく,一人行動してんじゃねえっつってんだろが!」
 ピカピカがやっと追い付いて,シーンをぐりぐりする.
「うへえぇえ〜〜」
 痛そうにするシーン.そこへ,フォルとルゥナ,リュアナとタキの四人が息を切らせてやってきた.
「ここが食堂マーレ,だよね・・・」
 フォルが,じっとその建物を眺める.
「何で店の名前まで知ってるんだよフォル」
 ピカピカが,シーンから思わず手を離して目をテンにする.
「さっき通った広場にね,貼紙があったんだよ」
 タキがそう言って,一番最初にその中へと入って行った.
「一番うまい食堂なのか?」
 ピカピカの言葉に,リュアナが首を振って言う.
「違うの,ピカピカ.ガナンさんのことが何か分かるかもしれないわ」
 ピカピカの顔から,さっと笑顔が消えた.
「ヤバイんじゃねぇだろうな」
 リュアナと顔を見合わせたあと,ためいき混じりにピカピカは食堂の扉をくぐった.全員でそれに続いて中に入っていく.


「すいませーん」
 中に入ると,タキが声をかけた.客は誰もいないようだ.お昼時だというのに・・・.
「はぁ〜い」
 女性の声が聞こえた.パタパタという足音と共に,ヴィータの女性が来た.
「あの,広場にあった貼紙を見たんですけど」
 タキの言葉に,その女性はパッと顔を明るくさせる.
「何か知ってるんですかぁ〜」
 間延びした口調の女性は,タキの横に視線を移してから,ウッと驚いて一歩下がる.
「あ,あのぉ〜」
 いつのまにか,その女性の足下にシーン・エランが張りついていた.
「おねぇさぁ〜ん,椎茸食べれるぅ〜」
 ひくひく,と顔を引きつらせる女性に構わず更ににじり寄るシーン.
「玉葱は生でいくタイプ〜?」
 えへえへ,とその顔はかなり嬉しそうだ.

ガツン!
 にぶい音がした.ピカピカが思い切りシーンの頭を殴った音だ.
「おめぇはよ〜懲りるってことを知らねぇヤツだなあ」
 仁王立ちするピカピカに,真っ青になると後退するシーン.
 ぐぅう〜と,お腹の虫が鳴る.
「お腹すいたぞぉ〜」
 怒られているのと,お腹が減ったのとダブルパンチなシーン. たまらず,フォルが吹き出した.
「あはは,すごいお腹の音したよ」
「うふふ」
「くすくす」
 全員に笑いが広がる.
「あ,お腹すいてるんですかぁ〜良かったらお昼ご飯どうですかぁ?最初のお客さんですからぁ,おごりますよぉ」
 女性がそう言うのを聞いて,全員が顔を輝かせた.タダ.何といういい響きだろう.
「やったぁ」
「ありがとう,お姉さん」
「すみません」
 口々に言うのを聞いて,女性がハッとすると頭を下げた.
「自己紹介してませんでしたねぇ,私はミラって言いますぅ」
 ミラはそう言って微笑んだ.
「ええと・・・」
 タキが,周りを見渡す.
「この男の子がシーン,この子がフォル,そしてルゥナ,リュアナ,そっちの子がマリー,アゲート,フローラ,それで俺はタツキと言います」
「よろしくお願いしますねぇ」
 皆はお互い,嬉しそうに微笑みあった.


 お昼ご飯は,魚のすり身と野菜を煮込んだものと,焼き飯だった.
 皆はそれを残らず全部たいらげた.かなり美味しかったらしく,おかわりする子もいたようだ.
「すごく美味しかったよ!」
 最後に出てきたアイスクリームを美味しそうに頬張りながら,フォルがにこにこして,ミラに言った.
「本当ですか,良かったですぅ」
 ミラも嬉しそうに微笑む.皆も,うんうんと頷く.
「ごちそうさまでした,本当に美味しかったです」
タキも言う.ミラは照れ臭そうに笑った.
「あの」
「えっとぉ」
 タキとミラが同時に言ったので,思わずお互いに顔を見合わせる.
「先に,どうぞ」
 言われてミラが頷いた.
「ガナンさんか,アルベルトさんについて何か知ってるんですよねぇ」
 タキは頷いた.
「アルベルトさんじゃなくて,ガナンくんの方ですが」
 うんうん,とミラは頷いた.
「彼は俺たちと同じ,オクヌ村で暮らしていた薬師です.俺より,リナとピカピカの方が詳しいでしょうけど」
 ちらり,とタキは二人を眺めた.ピカピカが自分が座っていたところから,歩いてミラの方へやってきた.
「じゃ,オレの知ってることから話すぜ」
 ミラは頷いた.
「あいつはセルバだから,オレたちが物心ついて知り合ったとき,既に一人きりだったんだ.あいつの両親は勿論木になったあとで,オレやアビーに植物について,いろいろと教えてくれた.でも,それに異変が表れたのはたしかオレが7才の頃だから・・・三年前か.それくらいだった」
 リュアナは,黙ってその話を聞いている.タキはそんなリュアナをちらりと見た.
「ヤケに物知りなのは前からだったけど,何かおかしいんだよな.たとえば,遠く離れた場所の出来事を知ってたりさ」
 ピカピカは話しながら,ちらりとリュアナの方を見た.俯いたままで,その表情を見ることはできない.
「また光ってる」
 横にいるタキが,そう言って自分がかけているペンダントを見つめた.その言葉に,全員がそのペンダントに視線を移す.
「もしかして・・・」
 そう呟いて,リュアナも自分の水晶玉を出してみる.袋から出すと,少しだけぼんやりと光を放つのが分かった.
「嫌な感じじゃないわ」
 リュアナは,水晶玉に手をかざして言った.
「何か見えるよ」
 マリーが叫ぶ.水晶玉には,どこかの景色が映されていた.どうやら部屋の中のようだ.
「どこなのかなぁ」
 フローラが,じっと水晶玉を見つめる.更に手をかざすような仕草をするリュアナ.
「とても大きい場所みたい・・・周りに高い壁があるわ」
 リュアナは静かに目を閉じて集中する.
「女のひとが一人・・・もう一人.二人いるみたい」
 すっと,リュアナは目を開けた.
「わたしはこの人に,会うことになるわ」
 真っすぐ,リュアナは水晶を見つめた.そこにはプラネタの女性が映っていた.
「綺麗な女のひとだぁ〜」
 シーンが,顔を赤くして覗き込む.
「服装からして,かなり裕福な感じだね」
 タキが続ける.
「高い壁って何かなぁ」
 フォルが唸る.
「あのぉ〜」
 ミラが,遠慮がちに言った.
「私が知ってることを話しますねぇ」
 皆は頷いた.
「ガナンさんは,ここの食堂に住んでいた家族三人を連れ去った,悪いひと・・・悪いセルバですぅ〜」
 タキが目をテンにする.
「そ,それで家族の方は何人ですか」
「アルベルトさんとディギーさん,それにディディさんの三人・・・それとジェシィさんもですよぉ」
 四人ですねぇ,とミラは言った.
「ガナンのやつは,何か不思議な力を使っていたんだろ」
 ピカピカの言葉に,ミラは頷いた.
「そうですぅ.このお店が水でいっぱいになりましたぁ.びっくりしましたよぉ」
 ピカピカは頷いた.
「やっぱりな・・・それで,何か言ってたのかよ」
「はいぃ〜光の山にいるからってぇ〜」
 ミラの言葉に,タキとピカピカは顔を見合わせた.
「やっぱり!」
「行こう」
 二人は頷く.ミラは首をひねる.
「あの,知ってたんですかぁ」
「その,アルベルトさんたちも,もしかしたら光の山に監禁されている可能性がありますよ」
 タキに言われて,ミラは握りこぶしを作ると詰め寄った.
「本当ですかぁ」
「たぶん,ですけどね.俺たちは今からそこへ向かうつもりでした」
 タキはそう言って,周りを見渡した.リュアナを始めとして,難しい顔をしている.ただ一人,シーンを除けば
「リュアナぁ〜ん」
 シーンが,くるりと周りながらリュアナの傍に来たかと思うと,彼女のスカートをおもむろにめくった.
「きゃっ」
 思わず裾を押さえるリュアナ.水晶玉を取り落としてしまう.ごとん,と鈍い音をたてて落ちる.そこには・・・・・・
「ガナン!」
 ピカピカとタキ,それにアゲートの声が重なった.
 ガナンは水晶玉の中でにこりと微笑んで,おもむろに視線を横に投げた.ガナンの視線の先に景色が移っていく.
 そこには,いなくなったアビーが気を失って倒れているのが見えた.
「あいつ・・・!」
 ピカピカが思わず歯軋りする.
「リュアナぁあ〜ん」
 もう一度近寄ろうとするシーンを足払いで一掃するピカピカ.
「てめぇはおとなしくしてろ!」
 アゲートは,じっとその水晶玉を見つめながら拾いあげて,リュアナに返してやる.
「助けにいこう」
 アゲートの言葉に,一同は頷いた.


 一同は,ミラに礼と別れを言ってから,ジュラン村を後にした.夕方頃には,ギラルカに辿り着けるはずだ.底無し沼を抜けるのは明るくなってからの方がいいだろう.一行はそこで夜を明かすことにした.


 軍用馬にまたがり,ショウは光の山へと急いでいた.その脇には,エリオット・イノールも走っている.
 彼らは夕方にはたぶん,光の山へ到着できるだろう.


 夕方前,少し太陽が落ち始めたころに二人は光の山へと辿り着いた.
「このどこかに,いるはずだ」
 ショウの言葉に,エリオットは頷いた.辺りに神経を尖らせつつ,二人は山へと歩みを進めた.
 しばらく行くと,道が二手に別れていた.二人ともこの山に入るのは初めてのことなので,何がどうなっているのかは全くと言っていいほど分からない.
「・・・困ったな」
 ショウの言葉に,エリオットが苦笑いで答える.エリオットは静かに目を閉じた.ショウはそう言えば,彼女は巫女であることを思い出していた.
 エリオットは,しばらくの精神集中の後,歌い始めた.それはとても高く美しい歌声で,ショウもその歌声に聞き惚れていた.
 ふと,その歌声が止む.
「左の道をまっすぐ,その後右手に折れると洞窟が見えてきます」
 ショウは頷き,二人は再び歩き始めた.


 エリオットが言ったとおりに歩くと,その先に洞窟が見え始めた.近付いていくと,案外大きな穴であることに気が付く.
「気をつけよう」
 ショウの言葉に,エリオットは頷く.ショウが先に洞窟へと入る.ゆっくりと歩いていくと,道筋が細い方と太い方に別れていた.案外大きな洞窟であることを知る二人.
「とりあえずこの道を覚えておいて,太いほうへ向かおうか」
 ショウは,持ち物から木の実を取り出して壁にこすりつけた.赤い印がハッキリと分かる.二人は更に歩いていく.
 その道筋はだんだん広くなっていき,自分たちの身長の三倍ほどの高さまで広がっていた.
「随分と広いな」
 ショウはそう言いつつも,気を抜かず辺りを伺う.
「気配が無いな」
 エリオットも,それは同じようだ.
「ようこそ,お二人とも」
 奥の方から声がしたので,二人はそのまま歩いた.そこには,ガナンが立っていた.その脇には男性のプラネタがいる.
「・・・何の用だ?」
 プラネタは振り返り,二人を睨み付けた.
「王女を・・・エル様を返してもらおう」
 エリオットがそう言った.
「そういうわけにはいかんね」
 プラネタは,二人に向かって手を翳すと,足下から土の壁が生えてきて,二人の足元をその場に固定してしまった.膝より少し上のあたりまでそれはあがってきた.
「くっそ・・・」
 ショウとエリオットは,必死に動こうとするが,二人の足はまるで彫像のように固まり始めていた.
「そこで,この国が落ちるのをご覧になるのも一興ですよ」
 ガナンがくすりと笑った.


GP輝凛E1 第4回「たいせつなもの」終わり

GP輝凛E1 第5回へ続く

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